なる上に身ま


「朔良。何度も話をしただろう?」

「だって、本当に卒業式かどうか、わからないもの。おにいちゃんは、ぼくをほおっておいてそのまま誰かと遊びに行ってしまうんだ。やだ。」

彩はため息を吐いた。朔良は入院して以来、すっかり聞き分けの悪い子供のようになっている。寝台の横に膝蓋痛治療腰を掛けて、彩はそっと朔良に一枚の紙を見せた。

「朔良。……ほら、これが式次第だよ。ちゃんと今日の日付と時間が書いてあるだろう?俺も両親に出席してもらいたいし、卒業式位出ておきたいんだ。もう最後なんだよ?」

朔良は彩の様子をうかがった。

「おにいちゃん……怒ってる……?」

「怒ってなんかない。朔良は昔から一人で留守番するの嫌いだったからな。式が終わったら、すぐに戻ってくるから、少しの間一人で待っていて。おみやげは何が良い?いい子にしてるなら何か買って来てやるよ。」

うさぎやモンブラン?シュー……おにいちゃんと食べる。」

「二時間待ちのやつか。まあ、いいよ。朔良が食べたいなら、並んで買って来てやる。」

「……買ったらすぐに帰ってくる?」

見つめる朔良に彩は肯き返した。まだ身動きもままならない朔良の足の状態は酷かった。手術できる状態になるまでに、20日近くを擁した。
全身麻酔で八時間もかかった手術後、数日して局所麻酔で三時間、整復に時間がかかった。
足首にはボルトが二本突き出していて、術後の朔良の足を見た母親は、その場で脳貧血を起こした。

「こんな大きな傷が残るんですか?!先生、この子まともに歩けるようになるんですか?元通りになるんですか?」

「よさないか、紗子。」

「だって、あなた!朔良が……」

手術の成功を告げた外科医に食い下がる激光矯視母親をなだめながら、父親はちらりとそこにいる彩を頼った。

「済まないね、彩君。紗子は朔良の事に関しては、平常でいられなくてね。君にもきついことを言うかもしれないが、我慢してくれよ。」

結婚して長く子供に恵まれなかった朔良の母親にとって、朔良は文字通り我身を削った分身だった。しかも小さく生まれた体も弱かったので、傍目には過保護に見えるほど甘やかして大切に育ててきた。朔良の両親にとって、朔良は何物にも代えがたいただ一つの掌中の玉だった。

「いいえ、叔母さんが言うのは無理ないです。朔良にも叔母さんにも悪いことをしたと思ってます。もう学校は自由登校だから、少しでも良くで当分朔良の傍にいます。」痛みに耐えかねて呻く朔良を励ましていた彩だったが、正直言って朔良の機嫌を取るのは骨が折れた。朔良は彩が傍に居る事のみを求めているように、側から離れることを極端に嫌がった。
父親から、彩がその年の大学受験を諦めたことを聞かされても、そうなんだと返事をしたきり気の毒がったりもしていない風だった。
それほどの犠牲を払っても、彩が傍に居さえすればいい、歩けなくても構わない……そんな風に思っているのではないかと思えるほどだ。

短時間の歩行訓練の度に、朔良は根を上げ涙を浮かべた。

「おにいちゃん……今日はもうお終いにする。」

「メニュー通り頑張るって約束しただろう?朔良はこのまま歩けなくなっても脱髮いいのか?ずっと松葉杖をついたまま過ごすつもりなのか?」

「おにいちゃんが傍に居てくれるなら、松葉杖でもいいよ。」