けたらも果たせ



口の中で、長い(?)舌が行ったり来たりした挙句、ぼくの舌の奥に巻き付くと、引き抜くように強く絡みついた。
気持ちいいかもしれないけど、息が出来なくて目の前が白くなってゆく

「おいっ!いい加減にしろよっ。」

そんな気合入れて、思いっきり吸い付いたら、息できないだろっ!」

どんとぼくに胸を突男士不育かれた海鎚家御当主は、ぺたりと尻餅をつき、片方の眉を上げて不器用に笑顔を作った。

なぜ、息を止める必要があるのだ?顔の真ん中についているそれは、おそらく呼吸に使うものだと思うがな。」

しょうがないじゃんか。キスするときにどこで息するかなんて、考えたことないし。

「できないもんは、できないのっ!」

クシナダは、もっと柔らかくて抱き心地良かったんだが、そなたは骨っぽい。口を吸うのも知らぬとは、やはりそなたは生地のままの無垢な赤子だ。」

うわ~むかつく~

骨っぽくて、悪かったなっ!これでも一応男だ。引きずった過去の女と一緒にすんなよっ!」

しまった、言い過ぎたと思ったけど、もう遅い。

真剣な顔で、海鎚家御当主は、無垢を褒めているのだがと寂しげに言った。
その夜遅く、とうとう本家での神楽の支度が始まった。
篝火に火が入り夜目に金色の火の粉が舞う。
青ちゃんは、ぼくと視線を合わさず、どこかよそよそしい。
ぼくが、過去の事を知ってしまったので、何となく居心地が悪そうだ。

転生の原因が、あの根性のひねくれたスサノオだとしてもね、今の青ちゃんの責任じゃないし、悪くないと思う。
そんなことで青ちゃんが責任を感じてへこまなくても良いんだよって告げてあげたかったんだけど、ぼくの支度は結構時間がかかったんだ。

ぼくの神楽の役は、当然クシナダヒメで、御当主の海鎚緋色は、オロチ。
これは、あたり前だな。
青ちゃんはもちろん、スサノオの役だ。

二人は、密かに練習していたみたいだけど、まあ昔の再現みたいなものだし。
まるで過去の体験をもう一度体感するような、不思議な感覚に襲われて、俺は少し緊張していた。

「あなたは、面をつけて、じっと前を向いていればよろしいのですよ。」

俺に白塗微量元素りの化粧を施して、真新しい着物を着せかけて、紅袴の家人は笑いかけた。

「とても、お可愛らしいクシナダヒメさまですこと。」

「おちんちん付いてますけど、姫でいいんですか?」

わざとそう言うと、返事の代わりに、何ともやわらかい笑顔が返ってきた。
最初、口が裂けたようで怖かった笑顔も、どうやら少し見慣れたみたいだ。

念願かなって、永久を誓った最愛の恋人とやっと約束をるのだから、みんなきっとうれしいに違いない。
これぞ真の大団円というやつだ。

ここに居るぼくは、今日からぼくでなくなって、鏡の世界のクシナダヒメが、新しいぼくになる。
ぼくは?
身体を失ったぼくの心はどこへ行くんだろうと考えると、ちょっと胸が寒くなったが、これ以上は考えないことにした。
もう、決めたことだ。
オロチがあんな切ない思いを抱えたまま過ごしてきた長い年月を思ったら、今ぼくにできることはこれしかないんだから

青ちゃんこれまでいっぱい迷惑かけたけど、もう会えなくなるんだよ。
ぼくのこと忘れないでいてね。
決心したはずなのに、ぐらぐらと決心は揺らぎ続け、情けなくも咽喉元から嗚咽がこぼれそうなのを必死で抑えた。

「ひっひくっ」

不意に、喉元に嗚咽がこみ上げて、ぼくは切なくなった。
女の格好をして、件(くだん)の鏡を覗き込むと、二重に写ったクシナダヒメが優しく笑いかけた。
珊瑚で出来た、桃の花のかんざしは永久に変わらぬ愛の贈り物。ない涙は、この変な張子のお面で隠れるし、何の心配も要らない。
ずるずるの着物を着て、鬘をかぶり、お面をつうぼくは古代に居たクシナダヒメだ。
青ちゃんのスサノオも、やはり面をつけ長い剣を持っている。
その剣の名前も今なら分かる。
青ちゃんの剣は、十束剣(とつかのつるぎ)というんだ。
あれで激しく戦ったんだよね。

面で視界がすごく狭くなっているから、よく分からないのだけど、雅楽で使うような笛の音や、太鼓の音がどこからか響く。

物語はオロチの妻問いから始まり、オロチとスサノオとの闘いになった。
親父とお袋は勿論、クシナダヒメの両親の役だ。
御当主の操る龍の大きな人形が出てきて、うねうねと紅の蛇腹がくねった。
多少慣れ降血壓食物たとはいえ、「長いもの」が自在に動き回るのはきつかった。

「クシちゃん、大丈夫?」