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族を連れて


 河崎文生は今年の3月まで『S-five』に勤務していた。俺はね、将来的には幹部として迎えるつもりだったし、新事業を立ち上げる時は三木くんの代わりに『タチバナ』を河崎くんに任せればいい、なんて考えていたわけだ。

仕方が卓悅冒牌貨ないよな。彼が「辞める」と言う以上は、「ダメだ」とは言えないし。まあ、言ったけど。

河崎が退職した理由は『愛』だ。恩田喜春という美青年に出会って、運命感じちゃったらしい。まあ、それも仕方がない。人を愛する気持ちに歯止めを掛ける事は難しいのだ。


「ねえ、信吾さん」

「なんだい?」

助手席に座った怜二が窓を開けた。冷たい風が吹き込んできて、スッと車内の気温が下がる。

「気分、悪い」

「えっ?大丈夫か!?」

「停め、て???っ」

俺は慌てて車を脇に停めた。怜二は急いでドアを開けて車から降り、その場にしゃがみ込んだ。

「???うっ」

「大丈夫か!?怜二!」

「う、ん」

車酔いだ。延々とカーブが続く山道に慣れていない怜二は、道路脇の草むらに向って苦しそう卓悅冒牌貨に吐いている。念の為に飲んでおいた酔い止めの薬は、役には立たなかったようだ。

俺はただ優しく背中を擦って「大丈夫か!?」と繰り返したが、怜二は苦しそうに胸を押さえて「静かにしてくれない?」と言った。切羽詰った声から怜二の苦しさが伝わってきて、俺はオロオロするばかりだ。

「ここから戻ろうか?」

『戻ろうか』とは言ったが、すでに山道を30分以上登って来たはず。ここから降っても同じ苦しさを味わう事になる。怜二もそれはわかっているから、苦しそうにはしているが首を横に振った。

まあ、ここではUターンも難しいけどね。

「だいじょ、ぶ。少し、休んでも、いい?」

後部座席に載せていたクーラーボックスの中から、冷えたミネラルウォーターのペットボトルと水で濡らしたタオルを出した。8月に家行った三木くんに言われて準備していたから助かった。

タオルはペットボトルと一緒に入れていたので冷たい。シャツ一枚しか着ていないが、怜二は受け取った冷たいタオルで顔を覆った。

周囲は杉の木だらけ。木と木の合間から太陽の光が漏れてくるが、日陰になって肌寒い。

「気持ちいい」

「三木くんが車酔いした時に役に立つから持って行け、って教えてくれたんだ」

チビちゃんたちが車酔いして大変だったらしい。

「そう。助かった???さすが三木店長だね」

怜二が、準備してきた俺ではなく三木くんを褒めたの卓悅冒牌貨が少々気に入らないが、ミネラルウォーターの蓋を開けて渡すと、怜二は一口含んで口を漱いだ。青ざめた頬の怜二は、タオルで口元を拭って俺に微笑んでみせる。